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見えない壁を越えて、二人三脚で紡ぐ寄り添う心のマッサージ。

視覚の状態は視野狭窄による弱視

2025年に東洋経済新報社が発表した「障害者雇用率ランキング」(2023年度)によると、障害者を3人以上雇用している企業1137社の中で、株式会社フレアスは第1位(雇用率15.13%)であった。国は障害者雇用促進法で一定規模以上の事業主に障害者の雇用を義務づけており(法定雇用率は2.5%)、フレアスはその数値をはるかにクリアしているわけだが、今年7月から法定雇用率は2.7%まで引き上げられる。

フレアスの現状はどうなっているか。26年4月現在で障害者雇用比率は約22.52%(約80人)まで上がっており、職種が視覚障害者でも働ける仕事というアドバンテージはあるにせよ、この数字は特筆すべきものだろう。背景としては、こうした働く障害者をサポートするための支援が手厚いと聞く。具体的には施術者の移動の際の社用車の運転や、書類記入、施術の補助などを担うライトサポーターの雇用に、音声読み上げ機能のついたタブレット端末とiPhoneの貸与など、さらには盲学校への積極的なリクルート活動が行われているという。

というわけで、今回は視覚障害者が働く「最前線」を訪ねてみた。初夏を感じさせる2026年5月8日午後、東京都下、府中市にあるサービス付き高齢者向け住宅で小石川将也(こいしかわ まさや)さん(38)と待ち合せた。現在の視覚の状態は視野狭窄による弱視である。小石川さんによれば「右目は完全に見えなくて、左目の視野は小さな穴から外を覗いているような感じで、例えると水の中で目を開けて見ているようなイメージ」であるという。

健常者の施術とクオリティはまったく変わらない

ライトサポーターの方に誘導してもらい患者さんの部屋へ向かう。サポーターの役割は、最初に患者の様子(普段と違い表情や体に異常がないかなど)を目の不自由な施術者に伝えることである。次いで患者の血圧と脈拍を測り、正常であることを確認する。小石川さんも彼女に「体調はいかがですか?」と尋ねると、「足がちょっと痛みます」と返ってきた。ベッドに仰向けになってもらい、施術が始まる。まずは右足から。膝を軽く曲げてもらい、膝に電気温灸器を当てて足全体を軽く揉みほぐす。次に左足で同様の手順を繰り返す。

「鍼のシールをつけるので、消毒しますね」と小石川さんが話しかけ、パイオネックス(円皮鍼:シールに鍼がついたもの)を両膝裏に2か所ずつ貼り付ける。そして患者の右手から、タオルを当てて話しかけながら施術を始めていく。両掌(てのひら)で包み込み、手首から肩にかけて筋肉を回すように揉みほぐす動作は、前回、他の施術者を見学した時と同じだ。

次いで右足に移る。足首の筋肉に適度な圧を加えて押していくうち、彼女の口から「気持ちいい」と言葉が漏れた。全体を揉みほぐし、それから小石川さんがゆっくりと数えながら膝の曲げ伸ばし10回。「少し痛い」と言いながらも、「だいぶ良くなりました。曲げられるようになりました」「毎日、朝と昼、廊下を一往復歩いているんですよ」との答え。今度は左足に移って同様の手順を繰り返す。

右側を向いて横向きになってもらい、腰から背中、首、肩と言う順番で施術する。見ていると、小石川さんの大きな掌がよどみなく体を押していく。「背中が固いですね」「強さは大丈夫ですか」と問いかけると「気持ちいいです」と答える。今度は左向きになって同じ手順を踏む。最後に仰向けになってもらい、小石川さんが鍼のシールをはがし、消毒。4か所のシールをはがしたことをライトサポーターが確認した。

終わりに膝の軽い運動を指導する。彼女に、ベッドに腰かけてもらい、両膝の間にクッションを挟み込み、両太ももの内側で押すように力をゆっくりと加えていく。それを10回。少し時間をおいてまた10回。今度は座ったままで右足を水平に伸ばし、つま先を立ててその姿勢を10数える間、キープする。そして膝の曲げ伸ばしを10回。同様に左足も。「宿題ですよ。自分でもやってみてくださいね」と小石川さん。これは自分でも試してみたくなる運動だった。

これで今日の施術は終了である。時間にして約30分間。このくらいが、長くも短くもなく、患者に負担のかからない適度な時間なのだろうと思う。小石川さんは、慣れた手順で滞ることなく仕事をこなしていた。彼女は何度も「気持ちいい」を口にした。健常者の施術とクオリティはまったく変わらないと思う。

施術後、患者さんはこう話してくれた。「1年前に施設からフレアスを紹介してもらいました。腰と足が痛くて、週2回、マッサージを受けるようになりましたが、効果が全然違います。今ではどんどん早く歩けるようになりました」嬉しそうに話す、彼女の明るい表情が強く印象に残った。

視覚障害者への支援が手厚いことが魅力

小石川さんは、資格取得後、2021年より特別養護老人ホームで機能訓練指導員として勤務した。23年10月、株式会社フレアスに転職し、国分寺市にある「フレアス在宅マッサージ国分寺」に配属。現在は主任施術者としてライトサポーターとともに二人三脚で1日に8人から12人の患者の施術を行っている。フレアスを選んだきっかけは何だったのか。

昨年、老人ホーム勤務時代に知り合った管理栄養士の女性と結婚。生後4ヶ月になるお嬢さんがいる。自宅から国分寺の事業所へは30分ほどのバス通勤。

「研修を経て、事業所の施術者に同行して学びながら、1か月後にライトサポーターと2人で施術を受け持つようになりました。リハビリ病院での知識と経験があったので、フレアスの仕事にはすんなり入っていけました。国分寺の事業所では、視覚障害者の配属は僕が初めてのケースでしたから、受け入れる方も戸惑いがあったかと思いますが、皆さん、よくしてくれるので大変助かりました。僕には、患者さんの表情がわからないので、認知症のある方や言葉を発することの難しい寝たきりの方に施術する場合には、『今、痛そうな顔をしているよ』などと教えてくれるライトサポーターの存在がとても頼りになります。僕は患者さんの体に触れて反応を感じながら、力を入れる加減を変えていきますが、『これでいいのかな』と思うことは今でもあります」。

穏やかな語り口と温もりのある大きな手

小石川さんにとって、フレアスは働きやすい職場環境であるようだ。

「フレアスには、視覚障害者を理解してくれる人がたくさんいるので安心感があります。一緒に仕事をする方々が、僕がどのように見えているのかわかってくれていることは心強い。以前、社長とお話をした時に、『視覚障害者も立派な戦力だ』と言ってもらったことは嬉しかったですね」。

仕事の難しさはどこにあると感じているか。

それだけにやりがいも感じている。

小石川さんは中肉中背、筆者と体格はほとんど変わらないが、掌をあわせてみると、ひとまわり大きかった。穏やかな語り口と、温もりのある大きな手が、きっと患者に安心感を与えているのだろうと思う。最後に、この先、どういう施術者になりたいか目標を聞いた。

「僕自身、障害を持っていることでくやしい思いをしたこともあります。だけど、助けてくれた人がたくさんいました。僕は、マッサージをすることで、困った人を助けるようになりたい。そのためには日々、自分で向上心をもって仕事に取り組んでいくことが大事だと思っています。何のためにマッサージでその動きが必要なのか、ケースによって違うので、経験を積んでいくことが重要です。コミュニケーション能力や認知症への対応力も必要です。苦しんでいる人が少しでも前向きになってくれるように、そんな施術者になれたら嬉しいですね」。

取材・文:元週刊新潮 副編集長 四方田 隆 YOMOTA Takashi

1982年、株式会社新潮社に入社し、週刊新潮編集部に配属。デスクとして特集記事を執筆するかたわら、連載小説も兼務する。特集記事デスクを経て、98年から週刊新潮編集部副編集長に。2010年から広告部部長。24年定年退職後、フリーの著述業。

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